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神戸地方裁判所 平成元年(ワ)290号 判決

原告

松本寛子

ほか一名

被告

八代醍美彦

主文

一  被告は、原告松本寛子に対し、金三六万五〇二六円及びこれに対する平成元年三月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告西口辰三郎に対し、金三三万円及びこれに対する平成元年三月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告松本寛子と被告との間において生じた分はこれを五分し、その三を被告の負担とし、その余は原告松本寛子の負担とし、原告西口辰三郎と被告との間において生じた分はこれを二〇分し、その一を被告の負担とし、その余は原告西口辰三郎の負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告松本寛子(以下「原告松本」という。)に対し、金六四万一七一〇円及び内金五九万一七一〇円に対する平成元年三月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告西口辰三郎(以下「原告西口」という。)に対し、金五九〇万円及び内金五四五万円に対する平成元年三月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 昭和六三年九月三日

(二) 場所 兵庫県加古川市八幡町宇佐九二番地の二先市道

(三) 当事者

(1) 加害車 軽四輪貨物自動車

運転者 被告

保有者 被告

(2) 被害車 普通乗用自動車

運転者 原告松本

同乗者 原告西口

(四) 態様 被告が、加害車を運転して前記市道を北進中、おりから前記番地先北側十字路を西から東へ進行してくる被害車に側面衝突し、その結果、被害車を損傷させ、原告西口を負傷させた。

2  責任原因

本件事故は、被告が、加害車を運転して、別紙図面記載のとうり、それまで西方へ進行していたのを右折して北進するにあたり、右折地点から一〇メートル足らずのところに、被害車が西から東へ進行してくる道路と交差する十字路が存在するのであるから、前方を注視して交差道路を進行する車両との側面衝突を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と進行した過失によつて発生したものであり、かつ、被告は、加害車の保有者であるから、被告は、民法七〇九条により原告松本に生じた物的損害を賠償すべき義務があり、自賠法三条により原告西口に生じた人身損害を賠償すべき義務がある。

3  損害

(一) 原告松本の損害

(1) 被害車修理費 金五四万一七一〇円

(2) 弁護士費用 着手金五万円

報酬金五万円

(二) 原告西口の損害

(1) 逸失利益 金四八〇万円

原告西口は、本件事故により左下腿両足挫傷の傷害を受け。その治療のため昭和六三年一二月中旬ころまで加古川市内の貞光病院に通院した。

ところで、原告西口は、本件事故当時、播磨化学工業株式会社の代表取締役として一か月金五〇万円、太陽化学工業株式会社の取締役として一か月金四〇万円、日之出化学工業株式会社の取締役として一か月金三〇万円の各報酬の支払いを受け、現実に右各会社に出社し、商取引等に関与して右各会社に対しそれぞれ多大の貢献をなし、かつ、利益を得さしめていたものであるところ、前記受傷により歩行がほとんど不可能となり、前記各会社に出社することができず、同年九月三日以降同年一二月末日まで休業を余儀無くされたため、原告西口は、同年九月四日以後前記各会社に対しなんらの業務もなしえなくなり、同年九月分以降の役員報酬の支払いを受けられなくなつた。

よつて、原告西口は、同年九月から同年一二月末日まで一か月金一二〇万円合計金四八〇万円の得べかりし利益を喪失した。

(2) 慰謝料 金五〇万円

(3) 弁護士費用 着手金一五万円

報酬金四五万円

4  よつて、被告に対し、原告松本は、金六四万一七一〇円及び内金五九万一七一〇円(弁護士費用中の報酬金を控除した残額)に対する訴状送達の翌日である平成元年三月四日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅廷損害金の支払を、原告西口は、金五九〇万円及び内金五四五万円(弁護士費用中の報酬金を控除した残額)に対する右同日から完済まで右同率の割合による遅廷損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否および被告の主張

1  請求原因1の事実はみとめる。

2  同2の事実のうち、被告が加害車を保有していることは認め、その余は争う。

3(一)  同3(一)の事実はすべて争う。

(二)  同3(二)の事実はすべて争う。

原告西口は、本件事故により、左下腿、両足損傷の傷害を受け、昭和六三年九月五日から同年一一月四日までの間七回貞光外科に通院し、治癒した。したがつて、同原告の職業からみて、かかる程度の受傷、通院がその労働能力及び収入に影響を及ぼすものとは考えられず、また、同原告は、迎車によつて出社し、稼働することが十分可能であつたにもかかわらず、自らの自由意思で出社しようとしなかつたのであるから、それによつて報酬を得られなかつたとしても、本件事故と相当因果関係がない。さらに、原告西口がその主張の如き役員報酬を得ていたかはきわめて疑わしいのみならず、その報酬が、はたして損害賠償の対象となる労働の対価であるかも疑わしい。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故は、見通しの悪い交差点での出会い頭の衝突事故であるところ、双方道路の幅員は四ないし五メートルでともにセンターラインの表示はなく、加害車及び被害車ともに時速約二〇キロメートル程度で交差点に進入したが、被害車が道路の右側部分を走行していたため、衝突は避けられなかつたものである。また、交差点内に残されたスリツプ痕の位置、形状から、被害車が一時停止をしなかつたことは明らかであり、左方優先を考えても原告松本の責任は重く、本件事故発生についてむしろ原告松本に主たる責任があり、大幅の過失相殺がなされるべきである

四  抗弁に対する認否及び原告松本の主張

過失相殺の主張は争う。原告松本は、道路右側を走行していないし、交差点手前で一旦停止している。加害車は、少なくとも時速約五〇ないし六〇キロメートルで交差点内に進入したものであり、交差点内に残された三条のにじり痕は、本件事故により被害車が加害車に押されてできたタイヤ痕ではなく、また、衝突によつて加害車が停止した位置も、実況見分時に加害車が停止していた位置とは異なる。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとうりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求原因1(交通事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。

二  右一で認定の事実に、いずれも成立に争いのない甲第一号証、乙第三号証いずれも原告ら主張の写真であることに争いのない検甲第一号証ないし第一三号証、原告両名、被告各本人尋問の結果を総合すると、本件事故は、被告が、加害車を運転して、別紙図面記載の「被告進行路」のとうり、西方へ進行していたのを同図面記載のA地点で右折して北進するにあたり、右A地点から約二〇メートルのところには十字路交差点があり、同交差点へ向かつて、被害車が同図面記載の「原告進行路」のとうり西から東へ進行していたのであるから、前方を注視して被害車の動静に注意し、被害車との側面衝突を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と進行した過失によつて発生したものであることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はなく、また、被告が加害車を保有していることは、当事者間に争いがない。

よつて、被告は、本件事故によつて発生した原告松本の物的損害については民法七〇九条により、原告西口の人身損害については自賠法三条により、それぞれ後記各損害を賠償すべき責任がある。

三  そこで、原告ら主張の各損害について判断する。

1  原告松本について

(一)  被害車修理費 金五四万一七一〇円

前掲乙第三号証、原告松本寛子本人尋問の結果により成立を認めうる甲第二号証、原告松本寛子本人尋問の結果によれば、同原告所有の被害車は、本件事故により右側面凹損の損傷を受け、その修理費用として金五四万一七一〇円を要したことが認められ、これを覆すに足る証拠はない。

(二)  過失相殺

本件事故における被告の過失内容は、前記二で認定したとうりであるところ、前掲乙第三号証、検甲第一号証ないし第一三号証、原告両名(ただし、後記信用しない部分をのぞく。)、被告各本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、事故現場である本件交差点は、幅員約六・四メートルの南北に通じる平坦なアスフアルト道路(以下「南北道路」という。)と幅員約六・五メートルの東西に通じる平坦なアスフアルト道路(以下「東西道路」という。)とが十字型に交差する交通整理の行われていない交差点であり、被告は、加害車を運転し、南北道路を時速約二〇キロメートルで進行し、原告松本は、被害車を運転し、東西道路を時速約二〇キロメートルで進行し、それぞれ本件交差点に差しかかつたこと、加害車からの左方の見通し及び被害車からの右方の見通しは、いずれも良好であること、本件衝突により、被害車は、別紙交通事故現場見取図記載の〈ウ〉の位置に停止し、加害車は、同見取図記載の〈3〉の位置に停止し、本件交差点内には、同見取図に記載のとうり被害車のものと思われるタイヤにじり痕三条が印象されていたこと、原告松本は、事故当時、被害車に同乗していた中田政子の息子がやろうとしている自動車修理工場のために必要なトレーラーの入り道を探しながら、かつ、同乗者としやべりながら被害車を運転していたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する原告本人両名の供述は、前掲各証拠と対比してとうてい信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定各事実を総合すると、原告松本は、前記東西道路の右側を、本件交差点手前で減速・停止することなく漫然と本件交差点内に進入し、別紙交通事故現場見取図記載の〈×〉の位置で加害車と側面衝突したものと認めるのが相当であり、そうすると、原告松本にも、本件交差点に進入するにあたり、前方を注視して前記南北道路を北進してくる加害車の動静に注意を払うことなく進行した過失があるというべきである。

もつとも、原告松本は、同原告は、前記東西道路右側を走行していないし、本件交差点手前で一旦停止しており、一方加害車は、少なくとも時速約五〇ないし六〇キロメートルで本件交差点内に進入し、前記三条のにじり痕は被害車のタイヤ痕ではなく、加害車の停止位置も前記〈3〉の位置とはことなる旨を主張する。しかしながら、同原告の右主張に添う証拠は、原告本人両名の各供述しかないところ、右各供述がとうてい信用できないことは前記説示のとうりであるから、原告松本の前記主張事実は、これを認めるに足る証拠がないことに帰する。

そこで、前記認定に基づいて、双方の過失を彼此勘案すると、本件事故発生についての過失割合は、被告が六割、原告松本が四割とするのが相当である。

そこで、原告松本の前記損害賠償請求権金五四万一七一〇円から、右認定の過失割合に従い四割を減額すると、金三二万五〇二六円となる。

(三)  弁護士費用 金四万円

本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額その他諸般の事情に照らすと、弁護士費用として被告に損害賠償を求めうる額は、金四万円と認めるのが相当である。

(四)  以上損害額合計 金三六万五〇二六円

2  原告西口について

(一)  逸失利益 〇円

何れも成立に争いのない甲第四号証の一ないし三、乙第一、二号証、原告西口辰三郎本人尋問の結果により成立を認めうる甲第五号証、原告西口辰三郎本人尋問の結果によると、原告西口は、本件事故により左下腿、両足損傷の傷害を受け、その治療のため昭和六三年九月五日から同年一一月四日まで貞光病院に通院し、治癒したこと、本件事故当時、同原告は、播磨化学工業株式会社の代表取締役、太陽化学株式会社及び日之出化学株式会社の各取締役をしており、毎週一回右各会社に出社していたことが認められる。

しかしながら、他方、前掲各証拠によれば、原告西口の傷害の程度は、両足の爪先の付け根部分の痛みであり、実通院日数も七日間にすぎず、その治療内容は主に湿布薬を塗布する程度であつたこと、原告西口の前記各会社における職務内容は、会社経営そのものではなく、大企業のプラスチツク製造過程で出る副産物たるスクラツプを、同原告の顔で大企業から貰い受け、これを合成樹脂の再生を業とする右各会社に入れるというものであり、大企業との交渉は、もつぱら電話一本でおこなわれること、原告西口は、電車等で通勤する際の前記受傷による跛行を嫌い、各会社に事情を話して二か月間出社せず、自宅療養し、また、播磨化学及び日之出化学の各会社からは車による送迎の申出があつたが、これを断つたこと、なお、同原告は、右自宅療養中も電話で前記各会社に対して仕事上の指示を与えていたこと、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によると、原告西口は、前記受傷の内容・程度からして週に一回出社することはさほど困難ではなかつたし、現に、播磨化学及び日之出化学の両会社には出社することが可能であつたと認められ、仮に、右出社が前記受傷により困難であつたとしても、同原告の職務内容に微する限り、これによつて、同原告が休業を余儀無くされたものとはとうてい認め難いから、たとえ原告西口が、前記各会社から役員報酬を得られなかつたとしても、本件事故との間に相当因果関係はないものというべきである。

(二)  慰謝料 金三〇万円

前記認定の原告西口の受傷内容・治療の経過に諸般の事情を考慮すると、本件事故によつて同原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては金三〇万円をもつて相当とする。

(三)  弁護士費用 金三万円

本件事案の内容・訴訟の経過及び請求認容額その他諸般の事情に照らすと、弁護士費用として被告に損害賠償を求めうる額は、金三万円と認めるのが相当である。

(四)  以上損害額合計 金三三万円

四  以上のとうりであるから、原告松本の本訴請求は、被告に対し、金三六万五〇二六円及びこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな平成元年三月四日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、原告西口の本訴請求は、被告に対し、金三三万円及びこれに対する右同日から完済まで右同率の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、それぞれこれを認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとうり判決する。

(裁判官 三浦潤)

図面

〈省略〉

交通事故現場見取図

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